従来のマルウエアはおかしなメッセージを出したり、システムの一部を破壊したりするものが多かった。しかし、ランサムウエアはシステムファイルやデータファイルを暗号化し動作できなくさせて、復号する暗号キーに身代金を要求したり、盗み取った重要情報に身代金を要求したりするケースが多い。
ランサムウエア被害の発生状況を調査した結果が図表 1.3.19である。
図表 1.3.19 ランサムウエア被害経験と内容(状況不明企業を除く)
この図から分かるように、企業規模が大きいほどランサムウエアの被害経験が多い。つまり、大きな身代金を払えそうな企業がターゲットになっていることが分かるが、発生頻度が低いだけで、規模の小さな企業がターゲットにならないわけではないことも分かる。
会員顧客企業を例にすると11.2%もの企業が被害経験を持ち、実際の被害としては「業務停止」が7.1%の企業で発生し、「身代金要求」が4.9%の企業で発生している。さすがに「身代金を支払った」と回答した企業はなかったが、「情報漏えいが発生した」企業が0.4%あった。
会員顧客大企業では18.8%もの企業が被害経験を持っている。
それでは、ランサムウエア被害で業務が停止した期間はどの程度であろうか。ランサムウエア被害経験のある企業を対象に調査した結果を図表 1.3.20に示す。
図表 1.3.20 ランサムウエア被害による業務停止期間(ランサムウエア被害経験のある企業)
会員顧客企業では、最も多い業務停止期間は56%の「1日以内」であり、次いで31%の「数日」が大半だったが、最大「数週間」の業務停止も、「ほとんど停止しなかった」もあった。会員顧客大企業では、十分な対策が行われているせいか、「ほとんど停止しなかった」と「1日以内」が半数ずつだった。会員顧客大企業に比べると、会員顧客企業は、被害の程度も大きく、何らかの対策強化が必要と思われる。
一般企業では、最大「数日」の業務停止を経験している。業務停止期間は小規模一般企業の方が長い傾向にあり、事前の対策強化が必要と思われる。
それでは、ランサムウエア被害に遭わないために、各企業はどんな対策をとっているか調査した結果を図表 1.3.21に示す。
会員顧客企業では、83%もの企業が何らかのランサムウエア対策をしている。具体的には、「次世代ウイルス対策ソフトウエア」が40%で最も多く、「セキュアゲートウエイ 」が32%で2位、「統合脅威管理 」が31%で3位だった。これに対し、会員顧客大企業では「次世代ウイルス対策ソフトウエア」と「アクセス権認証」が共に50%で並び、「統合脅威管理」が31%で3位だった。
一般企業では、ランサムウエア対策をしている企業が34~57%と少なく、具体的な内容も「次世代ウイルス対策ソフトウエア」が19~29%で最も多く、その他は中規模一般企業の22%が「アクセス権認証」を採用している程度だった。
図表 1.3.21 ランサムウエア対策状況と内容(状況不明企業を除く)
このような調査結果から、会員企業はランサムウエア対策を顧客企業に強く訴えていく必要があると言えるだろう。例え、クラウドサービスを使っているとしても、クラウドサービス事業者がランサムウエア被害に遭わないとは限らない。クラウドサービス事業者に対策状況を確認することも忘れてはならない。